バーナード「君は自由になりたいとは思わないのかね、レーニナ?」
レーニナ「わたし、あなたのいうことが分からないわ。わたし自由よ。とてもすばらしい時を過す自由を持っているわ。今ではすべての人は幸福なのよ」
-------------------ハックスリー『すばらしい新世界』


時間という絶対的思考間隔。空間、次元、地球という名の広大な世界。あるいは、人の思考という至極弱小な世界。単純で、複雑で、豪奢で、質素。
 重力に逆らい、世界(それは宇宙やその他小さな天体や星すべて)の中心に立ち、 凡ての思考間隔を司り、凡てを見据え、凡てを知る絶対的存在。最高神。凡ての始まりであり、 凡ての終極の源であり、凡ての終わりであり、凡ての存在の希望であり、絶望。
 エロヒムは時間という観念を知らなかった。彼は完全なる自由だった。彼は、その存在が余りに絶大かつ絶対的すぎて、彼は、何も知らなかった。
 只そこにいることが、彼の存在意義であり、只そこに居ることで世界は原形を止めていて、彼が居なければ世界は確実に滅ぶのだ。
 彼は、もともと一人だった。一人の、生物だった。彼は、そこで生きていた。人間にすれば厖大な時間数、世界にすればただ一瞬を、彼は生きていた。
 しかし今の彼は、時間を知らず、何を考えることも無く、完全な自由で、思考も無く、ずっとそこで、神としての役割を果たしていた。ただ立ち、ただそこに存在する。
 自由とは、完全な自由とは、彼だけ。


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